

レジオネラ属菌は、0.3〜0.9 ×2〜20μmの好気性グラム陰性桿菌です。通常レジオネラ属菌は自然界の土壌中や淡水に生息し、他の細菌類や藻類の代謝産物を利用し、アメーバなどの細菌捕食性原生動物に寄生して増殖します。
空調設備の冷却塔や浴槽などの水利用設備には、土埃や補給水に含まれてレジオネラ属菌が混入し増殖するといわれています。レジオネラ属菌を含んだ微細な水滴(エアロゾル)を人が吸入すると、抵抗力の弱い人がレジオネラ症に感染します。
尚、レジオネラ(Legionella)は細菌学の属名であり、レジオネラ属菌は現在のところ、50の菌種*が命名されていますが、ここではそれぞれの菌種名は言わずに属全体を包括的に指して、レジオネラ属菌と言うことにします。


海外でのレジオネラ属菌の感染事例は数多くあります。展示会の循環浴槽が原因でレジオネラ属菌に感染した例や、園芸用の袋入りの土と共にレジオネラ属菌を吸入して感染した例も報告されています。日本でもビルでのレジオネラ属菌の集団感染や、病院でのレジオネラ属菌の院内感染に加え、最近では温泉施設でのレジオネラ属菌の集団感染も報告されています。
レジオネラ属菌によるレジオネラ症を防止するために、ビルや病院の冷却塔、加湿器、給湯設備、温泉施設や公衆浴場などレジオネラ属菌の感染源となる水利用施設の適切な維持管理、レジオネラ属菌防除対策の徹底することが求められています。
Park et al.,Legionella busanensis sp.nov.isolated from cooling tower water in korea.int.J.Syst.Microbiol.,53,77(2003)
Scola et al.,Legionella drancourtii sp.nov.,astrictly intracelluar amoebal pathogen.Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,54.(2004)
レジオネラ属菌が冷却水や浴槽水に定着・増殖する要因として、アメーバなどの細菌捕食性原生動物やバイオフィルム(微生物膜)が重要であることがわかってきました。
<レジオネラ属菌とアメーバ類との共生>
レジオネラ属菌は各種原生動物に寄生する事が知られています。レジオネラ属菌はアメーバなどの食胞内で増殖し、最終的には宿主を破壊して多数のレジオネラ属菌が水系に放出されます。
1994年7月から9月の調査では、日本全国180冷却水の90%からアメーバ類が検出されています*。アメーバ類検出時のレジオネラ属菌検出率が43%、一方アメーバ類不検出時のレジオネラ属菌検出率は17%と大きな差があることから、アメーバ類がレジオネラ属菌の増殖の要因となっていることが容易に推察できます。
<レジオネラ属菌のバイオフィルムでの増殖>
レジオネラ属菌等の微生物は増殖しやすい環境を自ら作り出すために、バイオフィルム(ぬめり)を形成します。バイオフィルムは数多くの細菌や微生物から成り、ぬめりを帯びその内部は外部の影響を受けにくくなっています。レジオネラ属菌もバイオフィルム中で増殖することが知られており、増殖したレジオネラ属菌は、少しずつ水系に放出されていきます。そして、このバイオフィルムの中にいるレジオネラ属菌は、薬品処理を行っても、レレジオネラ属菌に対する薬品の効果が行き届かないためか、ジオネラ属菌が充分に殺菌されない場合があります。冷却水や浴槽水などのレジオネラ属菌対策を検討する際にはアメーバなどの原生動物やバイオフィルムの存在を考慮し、レジオネラ属菌とともにそれらもあわせて除去する対策を行う必要があります。
*遠藤卓郎:レジオネラとアメーバ類の共生(寄生)関係に関する調査研究。平成6年度ヒューマンサイエンス基礎研究事業研究報告第4分野,162-170,1995。
<レジオネラ菌対策=バイオフィルム対策>
日常の衛生管理と定期的な配管洗浄作業がバイオフィルムの発生を防ぎ、レジオネラ属菌対策となります。
1.浴槽水を清潔に保つ。レジオネラ属菌の栄養分を減らす。
2.管表面の凹凸を少なくし、レジオネラ属菌やバイオフィルムがこびりつくことを防止する。
1.配管洗浄でレジオネラ属菌の住処であるバイオフィルムを剥離・除去する。
2.装置の改造し、レジオネラ属菌が繁殖できないように高濃度・高温殺菌を行う。
